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 研究所を脱し、階をあがること三階、私達はビル敷地内にある地上のヘリポートへと辿り着いた。
 我がビルを見上げれば、地下だけではなく、一階から上階まで、ほとんどの階から炎が上がっていた。……全て……悪魔の所業だ……。幸い、ここはまだ火の手が上がってはいなかったが。
 楓川君は私を後部座席に乗り込ませ、その後自分が運転席へと乗り込んだ。
 エンジンを点ける前に、彼は何故か懐を探り、紙束を取り出し、少し逡巡した後私に手渡した。
「読んでください……首相……
 ……出しますよ」
 私は突然のことに困惑するが、楓川君はそれを無視してヘリのエンジンをかけた。
 上がっていく……
 東京の全貌が……見えてくる……
「ぁ……」
 東京が……燃えている……
 モニターで見るのとは違う……あまりに生々しい……
 燃え盛る……ビル……
 見えない……聞こえないが……しかしわかる……
 国民の絶叫が……
 彼らが……死んでいくの……が……
 東京はもはや火の海……地獄と化していた……
「ぁ……ぁ……ぁ……」
 私は……あまりに悲惨なこの事態を……受け止めることができず……半ば自失する……
「首相!!わかる!わかりますが!自分を失わないでください!
 それを……読んでください……」
 ……またも楓川君が、私の意識を現実に引き留めた。
「はぁっ……はぁっ……はぁっ……すまない……
 しかし……これがなんだというのだ……なんになるというのだ……」
 そう思いながらも、私は紙束に書かれた文に目を通す――
「――なっ……!?なんだ……これは……!?」
 私は、驚愕した。
 その文書は、ルナ君の――悪魔について書かれた文書だったのだ。
 ……一気に読み通す……
「なっ……なっ……なっ……」
 書かれていたのは……悪魔の生誕の真実……
そして……悪魔への……最大の……禁忌……
「そ、そんな……そんな……」
 恐ろしく、そして悲しい悪魔の真実が……そこには書かれていたのだ……
 私はただただ……驚愕し続けた……
「はぁっ……はぁっ……はぁっ……」
……ついに読み終えた時には、私はあまりの衝撃に息を荒げていた……
……私は……禁忌を……犯してしまっていたのだな……
ルナ君に……力を持つ者を立ち向かわせるなどという……あまりに愚かな行為を……
「……私は……間違っていたのだな……」
 ようやく自らの問いに……答えが出た……
「……っ……えぇ、そうです。私達は間違っていたんです」
 楓川君も、私のその答えに拍車をかける。
 私はヘリから、再度火の海となった東京を望んだ。
 何ということだろうか……
 私は日本国内閣総理大臣としても、間違っていた。東京を火の海にして……罪のない国民を……何人も……何人も……死なせてしまった……
 絵里香の祖父としても……私は……最悪だった……。絵里香を二度も……死なせてしまったのだから……、大きな苦痛を……伴わせて……
 私は結局……全てにおいて……間違っていたのだ……
 私は……完全に……自失した……
「……首相……とにかく東京から脱します……。場所を変えて……事の静圧を計りましょう……」
 楓川君の声も……もう私の心には届いていなかった……
 ………………
 …………
 ……
「!?」
 突然、轟音がした。何かが噛むような音だ。何かが噛んで……強引に動きを止めたような……
 運転席では、楓川君が表情を驚愕に歪めて、
「!?っ!くそ!何だこれは!動かねぇ!」
こう叫んでいた。
 見れば、ヘリコプターのプロペラは、何かに押さえ込まれたようにガシガシと轟音を響かせながら回転が止まっていて、ヘリコプター自体も、何かに掴まれたように、中空にピタリと静止していた。
 私はただこの事態を、事実としのみ認識して、止まってしまったプロペラをヘリの窓から望んでいた。
 ふっと、突然に前方に影がよぎった。
 私はプロペラから、窓の正面へと視線を移す――
「……絵里香……?」
 目の前の中空に浮かんでいたのは、間違いなく、絵里香だった……
 体はぼろぼろで……いたるところに傷があって……血を流していて……
それでも、体は再生していた……
 生きて……いたのだ……
 私はその事を認識し、すると、徐々に目頭が熱くなり……多くの感情が怒涛のように胸に流れ込んでくる――
「……えり……か――」
 ――前に――
「日本国内閣総理大臣」
 ――絵里香が、あまりにも冷たい、殺気さえをも伴わせるような声で私を呼んだ。
「私は力を失いました。もう、悪魔とは戦えません。しかし――」
 絵里香が、冷たく、笑った。
「――あなたを殺すくらいの力なら、残っているのですよ。
 ……こんな……私を……生み出した……あなたを……殺すくらいのなら……」
 絵里香の腕が、光りだした。
 ……殺されるのだな……私は……
 そう確信ながらも、私は――
 そうか……絵里香……すまないな……しかし……生きていて本当によかった……
 ――心の底からこう思っていた。
「っ!!くそっ!なんで動かねぇんだ!首相!首相!」
 楓川君が怒声を上げている。
 ……すまない……楓川君……君をも……巻き込んでしまって……
 ……ふ……これでいいんだ……私は……私は……この……果てしない罪を……償うために……ここで死ぬ……
 死んで……日本国民と……絵里香と……ルナ君に……詫びよう……
 ……本当に……すまなかった……
 絵里香が、私に力を込めた腕を差し出した。
 私は目を瞑らずに、最後まで事を見届けようと思った。
 絵里香の腕からバチィッと激しく放電がし、
「……死ね」
絵里香はそう呟き、私はついに力が放たれたと思った――
 その瞬間――
「「!?」」
 ――絵里香の体が、落ちた。
 いきなりに……そう……まるで……力が突然に抑えられて、飛行能力を失ったかのように……
 絵里香の顔が、驚愕と、そして恐怖に歪んで……堕ちていく……
 瞬間――
 ……絵里香っ!
「っ!絵里香ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 ――私は叫び、絵里香へとその手を伸ばしていた。
 もうこれ以上……絵里香を失いたく……なかったのだ……
 かろうじて届き、私は絵里香の手を掴み彼女の体を宙に取り留めた。
 同時、大きな負荷が私の腕にかかった。
「……っ!」
 腕に、激痛が走った。この老体に、16歳の少女の体重など、支えきれる訳がなかったのだ……
 ……それでも、私は、その手を離さなかった……
 絵里香は私の突然の挙動に驚くも、すぐに無表情となり……いや……顔を悲痛に歪めて……涙までもを浮かべて……叫んだ。
「……どうして……どうして……私は……私は何者でもない……あなたにとっても……何者でもないのに……どうして……どうしてっ!私を助けたりしたのですかっ!!
 離してっ!離してくださいっ!!私が何者でもないのなら……この世に……無理やりに生まれさせられた存在であるのならば……私は……ここで……死にますっ!!」
 ……なんという罪悪感だ、それが、私の胸を苛(さいな)む。たった一つだ、私は彼女を孫娘だと思ってやれなかった、そのことが、絵里香にこんなにも辛く悲しい思いをさせていたのだ……
「違う!違うんだ!!」
「違わないっ!!私は!死ぬ!私が……何者でもないというのなら……
この悲しみ……もう……力を失い……この悲しみを忘れることができないのなら……
 ……私は死にたい!死んだ方が!この悲しみを感じなくてすむのですからっ!!」
「違う!違うからっ!!頼むから死ぬなんて言わないでくれっ!!」
 私は必死で、彼女に自らの思いを伝えようと叫ぶ。
 その度に、彼女は泣き喚き私の言葉を遮る……
「頼む……違う……違うから……死なないでくれ……絵里香……絵里香ぁぁぁぁぁぁ!!」
 ……が、
「嫌……です……私は……死ぬ……――
 ――?……え……り……か……?」
絵里香は、気付いて、くれた……
 私の孫娘の名を、いや、違う、自らの、名を、呟いてくれた……
「絵里香……そう……そうだ……君は絵里香なんだ……」
「……絵里香……様……?」
「違う!私の孫娘は……絵里香は……君……なんだ……」
「……でも……私は……悪魔の……クローンで……――」
「――君が……確かに悪魔のクローンであろうとも……私にとっては……君は絵里香なんだ……
 ……頼む……すまないとは思っている……君に勝手なことを言って……こんなにも……悲しませて……それで……今さら私の孫娘などと……虫がよすぎる……それはわかっているんだ……
 ……しかし……私はもう……駄目なんだ……絵里香……君にこれ以上……悲しんで欲しくないんだ……。もう……絶対に……死なせたくないんだ……」
 心の底の感情を、ぶちまける……
「……君は……絵里香なんだ……」
 絵里香が……泣き止んだ……。泣いて、泣いていて、悲痛にも歪んでしまった表情が、少しだけ、和らいだ……
 ……そして……こう……言ってくれた……
「……私は……あなたの孫娘でよいのですか……?私は……この世に存在していて……よいのですか……?あなたの……孫娘……絵里香と……して……いていいんですか……?」
「いい!いいに決まっている!君は絵里香なんだ!」
「……おじいさま……とお呼びして……いいのですか……
 ……私は……この世に生を受けたことに……意味を持って……よいのですね……
 私は……生きていてもいい……絵里香と……して……
 ……おじいさま……おじいさまっ……!」
 絵里香が、目じりに涙を浮かべて、表情を歪めて、でもそれは歓喜によってで……そんな表情で……私を……呼んでくれた……
 涙が……出た……
「……絵里香……絵里香……」
 私は……こうして……5年間失っていた孫娘と……絵里香と……再度心を通わせることができたのだ……
 あまりに嬉しくて……嬉しくて……――
 ――途端、絵里香を掴んでいた腕の筋肉が張り詰めた。
「っぅぅ!」
 ……もはや……限界だったのだ……
「……!?おじいさまっ!?」
「……っぅ……絵里香っ!!」
 絶対に……離さない……もう……絶対に……絵里香を失いたくない……。思うのに……体が……ついていかなかった。
 ずるりと握られていた手と手が滑り、絵里香の顔が再度驚愕と恐怖に歪められた、瞬間――
「っ!絵里香様っ!!」
 ――背後から、滑り落ちていく絵里香の腕へと、再度、手が伸びた……掴んだ。
 楓川君、だった。
「……楓……川君……」
 楓川君……、彼女を……絵里香と……呼んでくれた……助けて……くれた……認めてくれたのだ……。あれほど、私に彼女を孫娘だと思うな、と咎めていた彼が……
 私は感涙にむせぶ……――
「!?」
 ――ヘリの機体が、大きく揺れた。そしてすぐに――
「……!!」
 ――揚力を失い落下し始めたではないか。 
 驚愕する私に、
「……首相、多少無茶します。絵里香様も、しっかりつかまっていてください」
楓川君がその場に不相応な、冷静な声で応えた。
 そして、
「ぐぅっ!」
楓川君が絵里香を一瞬で機内へと引き上げる。絵里香が一瞬痛みで顔を歪めた後、呆けてすぐに安堵の表情へと変わったのを楓川君は確認してから、彼は操縦席へと飛ぶように戻った。
 思えば当然だった。
 絵里香の力により止められていたプロペラ、それが突然に――恐らく、研究所に火の手が回り、その際に悪魔の力を抑える電磁波を放つ機器が暴走したのだろう――絵里香の力が抑えられることによりプロペラは急に動き出す。楓川君は私が絵里香と会話を交えている間、必死で機体の態勢を立て直そうとヘリを操作していたのだ。
 その状態において、彼は絵里香を助けるため、操縦席を離れた。
 ヘリがきりもみ状態となってしまうことは、楓川君が絵里香を助けてくれた時点で目に見えていたのだ。
ヘリは恐ろしいスピードで落下していた。窓から見える外の景色はぐるんぐるんと回転し、その度に旋回Gが機内の私達を襲った。
「っ……おじい様」
「絵里香……ぐっ……大丈夫だ……。楓川君がいる……」
 私は絵里香に自らの上着一枚を羽織らせ、怯える彼女を抱き留め、彼女とともに、楓川君に全てを託した。
 ……不思議と、それほどの恐怖はなかったのだ。私は、楓川君を、信じられていたのだ。
「くぅぅぅ!」
 楓川君が操縦桿(かん)を大きく捻る。回転していた機体が徐々に平衡を取り戻していく。それでも降下の勢いは納まらない。
 最悪はビルに激突してしまうことだ。そうでないとしても、このままでは地面に激突してしまう。
「ぐぅぅっ!首相!近くに大きな公園があります!そこに不時着します!衝撃には覚悟しておいてください!絵里香様も!」
「わかった……頼んだ……楓川君」
「……」
 楓川君の表情は、真剣そのものとなった。
 操縦桿を大きく引き上げ、途端、ヘリがガタンと大きく揺れる。機体が前傾姿勢をとった。
 そのまま狭い狭いビルの間を何度も何度も抜けていく。その間も下降しているため、斜め45度に空中を下(くだ)り降(お)りているようなものだ。
 風を切る轟音があまりに大きくて、それ自体が恐怖の色を伴っている。私の耳には、それが恐怖そのものとして轟く。
 私はそれでも、目を閉じなかった。迫り来る地面、それを、楓川君と共に、最後まで見ていようと思った。
 闇夜の向こうに、公園の敷地が見えてくる。
「ぐぅぅぅぅっ!!」
 楓川君が一際大きく歯を食いしばり、操縦桿を引き上げた。ヘリの機体ががくんと激しく持ち上がる。
 夜の人気(ひとけ)のない広場へと機体が落ちるよう強引に操縦桿を捻らせ機体は地面間近で大きく傾き、そして――
 ――絵里香は、んっ!と目を閉じた。私は彼女を、大丈夫だ、と言うように強く抱きしめ、目を見開いていた。楓川君を、信じていた――
 ――衝撃。
「ぐぅっ!!」
機体が腹から地面に激突した。大きく地面を抉りつつそのまま擦れていく。
 その衝撃は生易しいものではない。体がガクンと大きく振られ浮き上がり、私は天井に背中をぶつけ、座席から床へと投げ出されいた。それでも、絵里香だけは絶対に腕の中から離すまいと思っていた。
 何度か機体全体に大きな衝撃が走った後、ようやくヘリは止まった。
 何度も反転したため、私の視界はしばらく参っていた。
「っぅ……大丈夫か……絵里香……」
 ようやく視界が明確としてきて、私は節々が痛む体を叱咤し起き上げる。絵里香は、かろうじてまだ私の腕の中で、
「ぅう……大丈夫です……おじいさま……このぐらい……」
そう答えた。
「そうか……」
 私はひとまず安堵し、次に、
「楓川君……大丈夫か……」
と、運転席を覗く……が、
「……!!」
「……っぅぅぅ……」
楓川君が、激痛に、顔を歪めていた。
 衝撃で歪められた操縦機器、その間に、両足を挟まれてしまっていたのだ。身動きが、取れないのだ。
「っ!楓川君!」
「……大丈夫です……首相……。それより……早く機体から離れてください……。燃料が漏れていたら爆発する危険があります……
 早く……逃げてください……」
「っ!」
 私は歯噛みをした。
 ……楓川君……なぜ……そんなことを言うのだ……
 この責任は全て……私にあるというのに……なぜ……逃げろなどと言うのだ……
 私には生きろなどと言っておいて……君は……自分は見捨てて逃げろと言うのか……
 私のせい……私のせいで……多くの者が命を失い……そして……悲しい目に遭っているのだ……
 私は……私は……
「……絵里香、動けるな、ここから早く離れろ」
「……おじいさま……」
「っ!首相!」
「絵里香っ!いいから逃げるんだ。私はもう誰も、死なせたりはしない。
 楓川君、私はこの事態を自らの手で収拾する。もはや死んで詫びるなどという思いは捨てた。
 これは私の責任だ。だから私はこの街を、東京を、そして全ての国民を救いたい。それはもちろん、絵里香も、君も、ルナ君もだ」
「……首相……」
「勝手なことを言っているのはわかっている……もはや既に、幾人もの尊い命が失われている……それでも私は救いたいのだ。それが例え、私の力が及ぶ限りであったとしても、だ」
「……おじいさま……」
 自らの思いを言葉にした。絵里香は、理解してくれた。
「……はい、わかりました、おじいさま」
絵里香は機内から下り、こちらを心配そうに見つめながらも機体から走って離れていった。
そして、楓川君も、
「……首相、これは私の責任でもあります。首相がそうなさると言うのならば、私だってやります」
そう、応えてくれた。
「……ありがとう……楓川君……。……まずその機器をなんとかしなければな」
「……っ、少し右向きに、力を加えながら持ち上げてください」
「わかった」
 言われたとおり、機器の下に手を入れて持ち上げる。
 ぐっ……
「……っぅぅぅ!」
 腕に負荷がかかる。先程も絵里香を支えていた腕に、鈍痛が走る。それでも、私は腕に懇親の力を込める。
 機器が大きく軋んだ音を立て――
「っぅぅぅ!」
「っぅぅ――ぐっ!」
 ――突然にスッと楓川君の足が外れた。
「楓川君!」
「……ありがとうございます。首相。それより、逃げなければ――っぅぅ!」
「わかっている」
 楓川君は、尚も足を押さえ激痛に顔を歪ませている。見れば、挟まれた足のズボンの生地には、大量の血が染み出てきていた。
彼は動けないのだ。
 私は彼に肩を貸す。
「っぅぅ……申し訳ありません……首相……」
「……それは言うなと言っているだろう、楓川君」
「……それが……申し訳ないのです……」
「……」
 大柄な楓川君の体が私の体に大きな負荷をかける、が、押しつぶされそうなのを堪えて、私は彼と共に機体から何とか抜け出した。
「……大丈夫なようです、首相、見たところ燃料漏れはないようです」
「そうか、よかった」
「……おじいさま……楓川様!」
 絵里香が駆け寄ってくる。
 念のため十分に機体から離れたところまで、絵里香の肩も借りて、私は動けぬ楓川君を運んだ。ベンチにそっと座らせる。
 座らせて、ある程度落ち着いたところで、私やらねばやらぬこと、それを為すため、
「……絵里香、楓川君を頼む。私は、行ってくる」
言って、絵里香と楓川君を置いて、私は歩き出さんとする。
「!?っ……首相……行くとは……一体どこへ行くというのですか……。……申し訳ありませんが……私には……この事態を収拾するにはどうすればよいのか皆目検討もつかないのです……」
 ……わかっている、もはやこの事態は、一介の人間では収拾がつかぬものになっていることを。
 しかしそれでも、私は行かねばならないのだ。
「楓川君、確かに君の言うとおりだが、それでも私は何かをしなければならない。ここにいては、私は何一つとしてできぬではないか。
 楓川君、すまないが救急車は自分で手配してくれ。私は一刻も早く行かねばならぬから――」
「――おじいさま」
「……?」
 唐突に、絵里香が私に呼びかけた。私は彼女を振り返る。
 絵里香は、何故か顔を俯かせていた。
「……おじいさま……私には……わかります……。この事態を収拾する方法が……。……少なくとも今は生きている人全てを救う方法が……。身の内にある不死身の力、再生の力、それを使って……」
 彼女は呟くようにそう言った後、意を決したかのように顔を上げた。
 その表情は、今までのように無情なものではなく、強い想いが込められた、真剣な表情であった。
 彼女はしかと告げた。
「これは悪魔にしかできないことです」
 



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