……わ、私が……あなたを……殺す……ですって……
思った、瞬間――
「!?」
ぶわっと私の体が上空に引き上げられる。彼女が戦場をもとに戻したのだ。存分に、何も気にせずに思いっきりに力を行使できる上空に。
しかもそれはすごいスピードで、まるで瞬間移動したかと錯覚させられるほどに、私の体は一瞬で上空まで押し上げられた。
「っ……」
力を行使して、私の体を引き上げていた何かを振り払う。
下を見れば、彼女も上空へと飛翔してくる――
――しながら、もう力は放っていた。
「っ!」
彼女と共に、いや、それよりも先に私のもとへと飛んでくる一筋の赤い光。細く高密度なレーザーのようなそれは、一筋からどんどん数が増していき、いつのまにか十数本の光の束と化していた。
それが私を貫かんとする。
「っぅぅぅ!」
腕を前方に差し出しそれを防御する。
が――
「!?」
できない!そ、そんな!
それは私の展開したシールドを貫き、そして――
「がっ!」
私の体をも貫いた。
私の胸に腹に腕に肩に十数もの穴が開き、続いて激痛――
――が起こる前に私は自らの体に力を注ぎ、焼け消えた体の部位を再生した。
「はぁっ……はぁっ……はぁっ……」
ほ、本気で私をバラバラにするつもりなの……あいつは……
私は一瞬前まで穴の開いていた体を呆然と見て、思う。
体中に穴を開けられたり、バラバラにされることは、ちょっと前までは日常的にやられていたことだから怖くはない。
だけど、私はそれよりも――
「本気で来てください、悪魔」
「!?」
いつのまにかクローンは私の目の前まで飛翔してきていた。彼女は爪をまるで獣のように長く鋭利なものへと変貌させていた。それで私を裂こうとする。私は間一髪でかわす。が、彼女は更に力を放つ。
「さぁ、悪魔、私を殺す気で来てください……このままではあなたが死にますよ……さぁ……私を……バラバラに殺してください……
殺して……殺して……殺して……」
私に腕を差し出し力を放ちながら、まるで呪詛のようにそう呟き続ける。
私に、殺せ……殺せ……と。
……本当に、このままでは――こいつを殺す気でいかなければ……私は……死んでしまうかもしれない……。だから……私は……彼女を……殺すの……?殺せって……言うの……?
――私はそのことの方が、恐くてたまらなかった。
殺すなんて……あの悪夢が思い出されて絶対に嫌……そう……嫌……嫌……い――
「!?」
――強く、今までのものより更に格段に強く、まるで頭を貫くように、私の脳裏に忘れかけていたあの映像が映った……否……これはもう既に……鮮明すぎる……、完璧に私の記憶として、私の脳内に、それは投影された……
な、な、なによ……この記憶……
それは、今までのものと同じのように、私が力を持っている者とやり合っている光景……であったが、それはある点において、他のものとは違っていた……
一つに……私の力が驚くほど希薄であること……、それはもう……人一人殺すことが精一杯なほどの力しか持っていなかったこと……
それと……もう一つ……大きな点が……違っていた……
……私は……力を持つ者を……殺す……ことを……強いられていた……。何者かの……人間の手によって……
……そして……私は……強いられるがまま……その人を……殺した……
私の最も得意とする力――テレパシーによって、その人の頭に強力な念を送って、脳を、破壊して……殺した。
……私は、泣きながら、その人を、殺していた……
……すなわち先程から私の頭をよぎる映像は、私が力を持つ者と闘っている、のではなく、殺しあっている、だったのだ……
私は、それを、鮮明に憶えていた……いや、思い……出していた……
これは……紛れもなく……私の記憶だ……
力を持つ者を、人間に強いられ、殺していた、記憶。
私が……殺した……力を持つ者を……殺す……人間が……私に……殺すことを強いる……殺せと……強いる……
殺す……殺す……殺す……私が……殺す……殺せ……殺せ……殺せ………殺せ!!
あの悪夢が思い出される――
前に――
「きゃっ……きゃはは……きゃははははははははぁぁぁぁ!!きゃはははははははぁぁぁぁぁぁ!!」
なぜか、私の高揚感が、爆発した。
「きゃはぁぁっ!!きゃはははははははははぁぁぁぁ!!きゃはははははははぁぁぁ!!」
笑い叫ぶ。私は何も考えられなくなっていた。
悪夢、思い出されていく記憶、そんなことはもうどうでもいい。そのくらい、私の頭はおかしくなっていた。
……私は、狂い始めていた。
「きゃはぁぁぁぁ!きゃは!きゃはははははははは!!」
私を切り裂かんと爪を振るってきたクローン、その爪を――
――甘んじて体を張って受け止めた。肩から胸までが裂けて、彼女の長い五本の爪が私の体に食い込む。しかしそれは、ちょうど私の腹の辺りで止まった、いや、私が止めた。
激痛……走るがすぐに私は体を再生。その爪を体の中に食い込ませたまま、抜けなくさせる。
クローンの動きを止めた。
そのまま相手の肩を掴みグイっと体を引き寄せて――
「きゃはははははははははははは!!」
――彼女の腹に私の腕をねじ込んだ。
ずぶりと肉が裂ける音がし、私の腕は彼女の腹の向こうまで貫通する。
「きゃははははははははははは!!」
更にその腕に力を一気に流し込み――
「きゃははははははははははは!!」
――爆発させた。
「……きゃはっ……きゃははははははは!!」
クローンの体が内側から爆砕し、自らの腕もバラバラに砕ける
痛い……痛いけど……どうでもいい……そんなことどうでもいい……
笑い叫ぶ、もう、それだけしかできなかった。
私は腕を再生する。しかし、クローンの体はまだ再生していない。
ふと、彼女の砕けた肉片が見える。
……首から上を、見つけた。
……なぜだか、笑っていた。ふふっ……ふふふ……、と静かに微笑んでいた。
そして、首から上だけの彼女が、呟いた。
「日本国内閣総理大臣、あなたが私の為すべきことを教えてくれたのには感謝します。しかし、私はあなたに従うつもりはありません。なぜなら、あなたは私が何かを教えてくれませんでしたから……
私は……何ですか……、その問いを、与えてくれませんでしたから……。あなたが……私を作ったのだというのに……
だから、この、私の体に埋め込まれた機械は、もういりません。私は、力を封じられるつもりはありません。
私は……何なのか……それを忘れさせてくれる唯一の行為……悪魔と…殺し合うこと……そのためなら……私は……建物だろうと……破壊します……――
――人だろうと……殺し……ます……」
そして、クローンの体は再生した。散っていった血が触手のように繋がり、更に肉片を一箇所に繋ぎ合わせた。彼女の体に埋め込まれていたという、力を抑える電磁波を放つ機械は、彼女の体が一度バラバラになることにより恐らく体から取り除かれた。
彼女は、再度私に力を放つ。もはやその力には躊躇も手加減もなかった。ただ私を殺すためだけに放たれたものだった。
「きゃはぁぁぁぁ!!きゃはははははははは!!」
私は、その光景も、彼女の呟いたことも、やはり気にならず狂ったように笑い叫ぶ。もはや高揚感の中に、私の意識は飲み込まれていた。彼女の攻撃に、私も力を放ち交戦する。
……しかし、ただ一つ、こんな状態の私にも、わかったことがあった……
私の高揚感は、彼女と同じように、何かを忘れさせてくれる高揚感……
苦しいこと……悲しいこと……辛いこと……それらを忘れさせてくれる高揚感……
笑い叫ぶ私の目から、一粒の涙がこぼれ落ちる……
そう……これは……悲しい……悲しい……高揚感なんだ……
記憶が思い返されていく、1000年以上も前、私が生まれる前の記憶。
私が、まだ、悪魔、でなかった頃の、記憶が。
悲しい、悲しい、悪魔生誕の記憶が……
4章 交戦 終
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