13 

 チルノの意識が落ちていく。深く、深く。
(………………)
(…………)
(……)
――何よ、もう終わりなの?――
――ちょっと霊夢、失礼ね、私の友人がこんなところで終わる訳ないでしょう――
(……だめ……まだ……まだあたいはいけるから……)
――ほら、言った通りでしょ――
――そんなこと最初からわかったわよ。チルノ、だったら早く行きなさいよ。私の代わりに幻想郷、守ってくれるんでしょう?――
(……)
(……霊夢……レティ……)
(………………)
……チルノ……
 誰かが自らの名を呼ぶ声がする。体が、温かい何かに包まれているのを感じる。痛みも先程までの戦闘が嘘のように綺麗さっぱり無くなっていた。一体、あたいには何が起きたのだっけ。
「……チルノ!」
 もう一度、今度は強く名前を呼ばれる。何か懐かしくて、優くて、そして、チルノにとって愛しい声でである。そんな声に促されて、彼女はゆっくりと重い目蓋を開く。
 暖かな風が吹いた。ここは、博麗神社。
 いつのまにか、チルノは博麗神社の池の中にいた。その周りには、自らを囲むように、レミリアやフランドール、子供達の姿が、そして、メイリンやレイセン、仲間達の姿があった。
「……みんな……何で……?」
「霊夢がね、レミリアに教えてくれたんだって。チルノはここにいるって」
 穏かな微笑みを浮かべるレイセンの言葉である。傍らのメイリンがそれに続けて言葉を紡ぐ。
「妖夢達は冥界に帰ったよ。彼女らは彼女らなりに、冥界の秩序を新しく作っていくんだって」
 だから、もう大丈夫だよ、よく頑張ったね。彼女の優しい笑みはそう言っていた。彼女だけではない、他の仲間達も皆、思い思いの笑みをチルノに向けている。それを見て、彼女はようやく、今度こそ本当に胸を撫で下ろすことができたのである。
「……チルノっ!!」
 今まで涙目を浮かべて佇立しているだけだったレミリアとフランドールが、唐突にチルノに飛び付いてくる。苦手な水なんてお構いなしに。他の子供達も続々と池に飛び込み、そのままチルノも含めて一同、激しい水遊びの開始となる。
「ちょっと、やったわね!このっ――」
 そうやって、久々に思いっきりにはしゃぐチルノ。そんな彼女の視界の端、神社の境内の縁側、そこに、茶をたしなむ紅白と、その傍らに佇む旧友の姿が見える。後者は、チルノに向かって以前と変わらぬ微笑みを浮かべ、そして前者は、ゆっくりと湯呑みの中の茶を飲み干した後、
――もう、大丈夫ね――
と微笑んだ。そうして二人、身を翻し、白い光の中へと消えていく。
 チルノは、そんな二人の背を見やりながら、もう一度誓った。
 大丈夫、あたいが、幻想郷を守るから。             


Fin



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